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Touring with SUBARU
雨空をたたえて、
こけを愛でる
—奥入瀬渓流
〜青森県十和田市
今年も6月に入ればほどなく梅雨入り。しばらく雨の日が多くなる。もちろんせっかく旅に出るなら、雨は降っていない方がいい、晴れていた方がいい。確かに、旅に雨は望ましくないものかもしれない。だが、この雨が植物を成長させ、日本の夏を潤し、晴れのありがたさを感じさせてくれる。雨だからこそ、楽しめる旅がないものだろうか。そんな思いをきっかけに出かけた今回のドライブは、あえて雨天に出かける旅、コケを愛でに行く旅だ。
こけ輝く、緑の流れのそばで
十和田市の市街地から十和田湖までは、国道102号を東南へ約35㎞。十和田湖に向かう最後の約14㎞が奥入瀬渓流と呼ばれる流れで、川と国道がほぼ同じ高さを走っている。川を右に左に見ながら緩やかに十和田湖に向かって国道を登っていく。オークブラウン・パールのアウトバックをのんびりと走らせる。ゆとりある排気量はここでもまったく不自由を感じさせない。取材時は木々の芽吹きにはまだ早く、枯木立のように見えるが、地面は徐々に緑になりつつある。茶色のアウトバックが、少しずつ広がる柔らかい緑に映える。
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奥入瀬川のすぐそばを通っている遊歩道を歩く。
奥入瀬渓流の途中の石ヶ戸休憩所で、奥入瀬自然観光資源研究会のネイチャーガイド玉川えみ那さんと落ち合った。
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奥入瀬自然観光資源研究会ネイチャーガイド玉川えみ那さん。
「日本に生息するコケの数は約1800種。奥入瀬渓流には300種以上が生息するといわれています。奥入瀬では、木々や川のせせらぎを眺めたり、トレッキングをしたりするのもおすすめですが、私たちはここで『立ちどまるから、見えてくる』をテーマに『コケさんぽ』というツアーを実施しています」。
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コケの胞子嚢をこんなにまじまじと見るのは生物の授業以来。
「これが奥入瀬の森の縮図です」と玉川さんが指したのは、遊歩道脇にある岩の上に伸びた木だ。奥入瀬渓流は、もともと八甲田火山由来の火砕流台地だ。その台地が十和田湖から流れ出た水で侵食され、深い谷が形成された。その岩だらけの谷の岩にコケが定着する。そのコケの上で植物が芽を出し、生えては枯れを繰り返し、土をつくっていく。そこで木々が育ち、そして緑の谷になった。コケがあったからこそ、奥入瀬は森を育むことができたのだ。
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木を生やした岩は奥入瀬の森の縮図。コケがあるからこそ、この木もここに育つことができた。
そういう奥入瀬の森の成り立ちの説明と合わせて、ルーペの使い方も教わる。新たな視点を得た私たちは、岩に生えたコケというコケをしげしげと観察しながら歩くため、30分経っても30mも進んでいない。これまでは「コケ」は「コケ」にしか見えていなかったものが、突然、それぞれの形と色をした可愛らしい植物に見えてくる。雨が降れば水分を吸って、晴れた日よりもふっくらと全身を伸ばし、ずっと鮮やかな緑を見せるのだそうだ。
「梅雨の雨の中をコケさんぽすると、一段と緑も鮮やか。豊かなコケの世界に驚いていただけると思います」と玉川さん。
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
ルーペで焦点を合わせようとすると、このくらい岩に近づいている。
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奥入瀬渓流沿いの駐車場にて レガシィ アウトバック
こけに触れ、こけを愛でる、こけ玉づくり
奥入瀬川は十和田湖から流れでる唯一の川。雨や雪、雪どけ水は十和田湖に一度溜まり、奥入瀬川として緩やかな傾斜を流れだす。それが渓流内の岩にコケが育つ一要因なのだそうだ。雨が降ると水かさが増え、急流となるような川では岩にコケは育たない。もし奥入瀬川の岩がまったくコケの生えていない岩だったら、奥入瀬渓流の眺めも随分違っただろう。
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たくさんのこけ玉で埋め尽くされる奥入瀬モスボール工房。
十和田湖でUターンして、奥入瀬渓流の下流部にある奥入瀬渓流館に向かう。その一角に、「奥入瀬モスボール工房」はある。この工房は元プロレスラーの起田高志さんが始めたこけ玉屋さん。様々な苗木を生やしたこけ玉を購入できるほか、こけ玉作り体験もできる。奥入瀬渓流は国立公園の特別保護地区で天然保護区域であるため、実際の奥入瀬のコケや植物は持ち帰れないが、契約農家が育てたコケを用いたこけ玉を持ち帰り、「小さな奥入瀬渓流」を家でも楽しむことができる。
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こけ玉作りを教えてくださった川畑さん。
コケさんぽですっかりコケに愛着が湧いてしまい、こけ玉を作ってみることにした。ブナやモミジ、シダなど奥入瀬に生えている植物3、4種類の中から、好きな植物の苗木を選ぶ。苗木の土の周りを水ごけで包み、さらに緑のコケで包みこみしっかりと握る。30分ほどで出来上がりだ。生物学的に言えばコケに花はないが、調べてみるとコケにも花言葉があり、「母性愛」「信頼」「物思い」なのだそうだ。両親や大切な人への思いを込めて、こけ玉を握ってプレゼントするのも良いかもしれない。
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苗木の根を水ごけで覆う。
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その表面に契約農家がこけ玉用に育てた緑のコケを巻きつけていく。
こけ玉を眺めながら、奥入瀬渓流館の「こけソフト」を味わう。コケをイメージした抹茶の粉と木の幹や岩のようなチョコレートソースがかかったソフトクリームだ。ほんのり抹茶チョコレート味のソフトクリームが甘さとともに身体に沁みていく。
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奥入瀬渓流をイメージした「こけソフト」。
コケを見るというのは、小さな世界を覗くこと、普段は通りすぎているものに目を向けるということ。新しい尺度、新しい視点を知ってしまったからには、山歩きは当然、街での散歩すら、今までとは少々違って見えてくるのでは、そんな期待を胸に帰路についた。
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手前の2つが体験で作ったこけ玉。目を付けると愛着がさらに増してしまう。
今月のルート
十和田市市街地〜奥入瀬渓流館(奥入瀬モスボール工房)
〜石ヶ戸休憩所〜子の口
今月の紹介ポイント
奥入瀬渓流コケさんぽ
おいけん(NPO法人奥入瀬自然観光資源研究会)主催
TEL:0176-23-5866
https://www.oiken.org/
● コケさんぽライト
コース:奥入瀬渓流
時間:90分
※別途、移動時間が加わることあり
①6:00〜7:30 ②9:30〜11:00 ③13:30〜15:00
催行人数:1名〜5名※ご予約状況によって、複数のグループで催行する場合あり
催行時期:4月下旬〜11月上旬
対象:小学生以上
料金:¥3,500/人[消費税・保険料込]
※3時間ほどかけて実施する「コケさんぽディープ」もあります。(料金:¥6,000/人[ 消費税・保険料込 ])
奥入瀬モスボール工房
青森県十和田市奥瀬栃久保183(奥入瀬渓流館内)
TEL:0176-74-1233
時間:9:00〜16:30
※火曜定休※冬季(12月〜3月)は休業
http://www.mossball.jp/
こけ玉作り体験は1名様から、大人¥2,000〜、小学生以下¥1,500〜で体験できます。
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