室戸ユネスコ世界ジオパークは高知県東部の室戸市全域が範囲。独特な奇岩は地層中に入り込んだマグマがゆっくり冷え固まったもの。 Photographs●小川 宏子
SUBARU on the Road
四国遍路~1200年以上続く、
祈りの旅路を行く
徳島県海部郡美波町~高知県室戸市
室戸ユネスコ世界ジオパークは高知県東部の室戸市全域が範囲。独特な奇岩は地層中に入り込んだマグマがゆっくり冷え固まったもの。 Photographs●小川 宏子
夏の暑さがやわらいで過ごしやすくなる秋は、春と並んでお遍路のベストシーズン。お遍路といえば歩いて行なうイメージが強いが、最近ではクルマや公共交通機関などを併用する人も多い。クルマでのお遍路は徒歩よりも移動が容易で、公共交通機関やツアーに比べて時間的な制約もないため自分なりのペースで巡ることができる。今回はレヴォーグ GT-H EXに乗って、徳島県にある第23番札所「薬王寺」と高知県にある第24番札所「最御崎寺[ほつみさきじ]」を訪ねた。
一品一品を丁寧に味わう、
心豊かな時間
真言宗の宗祖である弘法大師[こうぼうだいし]により、今から約1200年前に開創された四国八十八ヶ所霊場。弘法大師の御跡[みあと]をたどるその全行程は約1200kmにも及ぶ。四国遍路は始まりと終わりが円状に結ばれる循環型の巡礼路で、巡る順番は自由。今回は札所間が80km弱と距離があり、海岸沿いを走る国道55号を通るため、四国の海の景色を楽しみながらドライブできるということで、第23番札所「薬王寺」と第24番札所「最御崎寺[ほつみさきじ]」を訪ねることにした。
美波町を流れる日和佐川沿いを走るマグネタイトグレー・メタリックのレヴォーグ。奥に見える赤い建物が薬王寺の瑜祇塔だ。
徳島市内から国道55号を1時間ほど南下すると、小高い丘に立つ赤い建造物が目に留まる。最初の目的地である薬王寺の瑜祇塔[ゆぎとう]だ。駐車場にレヴォーグをとめて納経所へ向かう。僧侶の方に教えていただきながら、白衣[びゃくえ]、山谷[さんや]袋、金剛杖といった基本的な巡礼用品を揃えていく。山谷袋に書かれている「同行二人[どうぎょうににん]」の意味を尋ねると、「お遍路中は常にお大師さま(弘法大師)と共にいるという意味で、金剛杖はお大師さまそのものです。お大師さまは橋の下で眠っているとされるので、橋の上では杖を突かないようにしてください」と教えてくれた。身支度が整ったら仁王門をくぐり本堂へ。教わった手順で本堂と大師堂を参拝し、最後に納経所でお経を奉納したしるしであるお納経をいただいた。
薬王寺の納経所では、白衣[びゃくえ]、輪袈裟[わげさ]、山谷[さんや]袋、金剛杖、杖カバー、納札、ロウソク、線香、朱印帳、経本、といった基本的な巡礼用品を購入できる。すべての札所で巡礼用品を販売しているというわけではないので事前の確認がおすすめ。
堂々とした佇まいの仁王門。両脇後方には仁王像が安置されている。
薬王寺のご本尊は厄除薬師如来。厄除けの寺として全国的にも有名。
本堂と大師堂をつなぐ参道を歩く。
納経帳・朱印帳は300円、白衣は200円、納経軸は500円の納経料を納める。
薬王寺では本坊の内拝や、写経、阿字観[あじかん](真言宗の修行である瞑想法)の体験、精進料理をいただくことができる。精進料理とは肉・魚・酒・五辛(ニラ・ニンニク・ネギ・ラッキョウ・ハジカミ)など僧侶が食べることを禁じられている食材を使わない料理のこと。「山芋の蒲焼」は、すりおろした山芋を揚げて蒲焼のたれをつけたもの。初めて食べる料理にワクワクしながら一口ほおばると、裏面に貼られた海苔の鰻の皮のような食感に驚く。甘じょっぱい味付けが食欲をそそり御飯がすすんだ。街の喧騒から離れた静かな空間での食事は、五感が研ぎ澄まされ、一品一品の風味や香り、食感をゆっくりと丁寧に味わうことができた。
お品書き:御飯、香の物、ほうれん草の和え物、果物、大豆ミートの南蛮、もずく酢、そば米汁(徳島県の郷土料理)、山芋の蒲焼、野菜の炊合わせ、胡麻豆腐。(4名より・要予約)
瑜祇塔[ゆぎとう]のある場所からは美波町を一望できる。
弘法大師の修行の地を訪ねて
お腹が満たされたところで、最御崎寺を目指して国道55号を室戸方面へ南下していく。室戸市に入ると、海岸にそびえたつ奇岩と出くわす。四国で唯一、ユネスコ世界ジオパークに認定されている室戸市は、車窓からでもその独特な地形を楽しめる。国道55号沿いに弘法大師ゆかりの洞窟があるということで立ち寄ってみた。御厨人窟[みくろど]は弘法大師が悟りを開いたとされる場所。海が近く、洞窟の中からも波音が聞こえてきた。この波音は「日本の音風景100選」に選ばれている。道を挟んだ室戸岬の海岸沿いにある乱礁遊歩道を歩くと、地球のダイナミックな営みを感じる奇岩や力強く気根を伸ばすアコウの木の生命力に圧倒された。
御厨人窟の向かって右隣にある神明窟[しんめいくつ]は修行の場所として使われたとされる。
太い気根が特徴のアコウの木。室戸岬の亜熱帯性樹林および海岸植物群落は国の天然記念物。
御厨人窟と国道55号を挟んで空と海が見える。“空海”と名前をつけたのも、ここから見える景色に感銘を受けたからと言われている。
御厨人窟を参拝後、目の前に虹が現れた。
国道55号をさらに進み、室戸スカイラインを右折する。上り坂でカーブが続く道でもレヴォーグは軽やかに進んでくれるので頼もしい。最御崎寺ではご住職にお話を聞くことができた。「お遍路は巡る順番や期限に決まりはなく、とにかく全ての札所を巡ることが大切です。八十八ヶ所を回りきった人は顔を見るだけで違いがわかりますよ。お遍路を通して四国の自然とそこに住む人々の信仰心に触れることで、迷いや悩みをリフレッシュできるのかもしれません」。
最御崎寺のご住職・島田信弘さん。
空海の七不思議の一つである鐘石[かねいし]は、窪みに置かれた小石で叩くと金属音のような音を発する。
この響きは冥土まで届くといわれている。
最御崎寺は「東寺」、第26番札所「金剛頂寺」は「西寺」とも呼ばれており、
最御崎寺でいただいたお納経には「東寺」と記されている。
正面が最御崎寺の本堂、向かって左手は鐘石と大師堂、右手は鐘楼堂(手前)と多宝塔(奥)。
四国では、お遍路さんは弘法大師と一緒に歩いている存在と考えられ、通りがかりのお遍路さんに親切にする「お接待」という文化もある。地元の方々との触れ合いもお遍路の醍醐味なのだ。また、「お遍路という同じ経験をすることで仲間意識が生まれてくるのだと思います」というご住職の言葉の通り、境内で出会ったお遍路さんと挨拶したり雑談したりと、見ず知らずの方とも自然とコミュニケーションが生まれた。四国遍路の一端に触れた今回の旅。全て回りきる頃にはどんな自分になっているだろう。祈りの旅はまだ始まったばかりだ。
薬王寺
徳島県海部郡美波町奥河内字寺前285-1
TEL:0884-77-0023
https://yakuouji.net/
※各種体験は要予約(寺務の都合上、実施していない日あり)。詳細はHPへ。
最御崎寺
高知県室戸市室戸岬町4058-1
TEL:0887-23-0024
注)新型コロナウイルス(COVID-19)の感染予防のため、営業時間・営業内容に変更が生じる場合があります。事前に各スポットへお問い合わせください。
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