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県道28号から分岐する八溝林道の入り口には、八溝嶺神社[やみぞみねじんじゃ]の鳥居が立つ。クルマに乗ったまま鳥居をくぐり、林道へと入っていく。
Photographs● 小川宏子 Text● 塩田典子
SUBARU on the Road
39年目の
八溝山[やみぞさん]へ、再び
茨城県大子町[だいごまち]〜
福島県湯岐[ゆじまた]温泉
県道28号から分岐する八溝林道の入り口には、八溝嶺神社の鳥居が立つ。クルマに乗ったまま鳥居をくぐり、林道へと入っていく。
Photographs● 小川宏子 Text● 塩田典子
今から39年前の1981年に発行されたカートピア12月号(通巻114号)のドライブ企画のタイトルは「八溝山縦走」。
スバル・レオーネを快走させ、茨城・福島・栃木の県境にそびえる八溝山へと赴いた。今回、再びアイスシルバー・メタリックのインプレッサ スポーツ アドバンスで当時と同じルートを辿ることに。
39年の時を経た今、果たしてどんな風景が待っているのか?
当時の貴重なカートピアを手に、期待に胸を膨らませて出発した。
昔のままの滝の飛沫と
茶店の名物に心なごむ
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39年前の記事の扉写真は、福島側の久慈川林道でのカット。取材時は通行止め区間手前で同じような構図で撮影できた(上写真)。
39年前に誌面に登場したスバル・レオーネといえば、父が乗り続けていた愛車。当時は家族で全国を旅して回ったっけ。そんな懐かしい思い出に浸りながら、常磐自動車道那珂[なか]ICから久慈川[くじがわ]に寄り添う国道118号を北上する。常磐自動車道の柏〜谷田部IC間の開通が発行年と同じ昭和56年。那珂ICまで延伸したのがその3年後だから当時は一般道でひたすら向かったことが窺える。さぞかし遠い道のりだったに違いない。国道118号にはJR水郡線も併走する。色づき始めた川辺の風景に絡み合うように線路が連なり、時折ローカル線が走り去る。なんとものどかな風景。1時間ほど走り、前回の立ち寄り先のひとつ、袋田の滝へ。当時新設されたばかりだった276mのコンクリートトンネルを進み第1観瀑台へ。高さ120m、幅73mの瀑布[ばくふ]が水飛沫[みずしぶき]を浴びるほどに迫る。平成20年には高い位置に第2観瀑台が完成。四段に落下する滝の最上段まで滝の全景が楽しめるようになった。例年1月下旬まで滝のライトアップも開催。2月初旬には氷瀑が見られる年もある。吊り橋で対岸に渡ると渓谷を見下ろす茶店が。
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12年前に完成した第2観瀑台から望む袋田の滝。色づく木々にすっぽりと包まれた滝の全景がよく見える。
「瀧見茶屋」のテラスからは木に隠れて滝は見えないが、屏風岩や天狗岩といった奇岩を見上げつつ、名物の味噌おでんと冬季限定のけんちんそばでひと休み。奥久慈名産のコンニャクには敷地内に育つ柚子[ゆず]の皮をすり下ろして作るという自家製のゆず味噌がかかる。ほんのりした柚子の香と優しい甘みの味噌がぷりぷりしたコンニャクにまとって旨い。けんちんそばは自家菜園で採れた根菜や芋がら、コンニャクなど具沢山で、自家製の味噌仕立て。野菜と芋がらの出汁が沁み渡る。店先では店主が鮎の塩焼きや団子を炭火で炙っている。「30年位前まですぐ下に天然スケート場もあったんだ。最近は温暖化の影響で氷瀑の期間も短くなったね」と店主は話す。自家製のゆず味噌(400円)をお土産に、温かな気持ちで店を後にした。
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味噌おでん(一皿3本)400円と冬季限定のけんちんそば900円(うどんに変更も可)。
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鮎や串団子(ゆず味噌味)、軍鶏(テール・つくね)の炭火焼きは、瀧見茶屋の店主・根本和一さんの仕事。
激変した八溝山への道
20代続く秘湯の湯宿
![久慈川の源となる八溝山[やみぞさん]山頂](images/touring/img201.jpg)
久慈川をさらに上流へ。久慈川の源となる八溝山を目指す。久慈川から分かれる八溝川に沿う県道28号を進んでいくと山あいの集落にリンゴ畑が点在し、赤い実がたわわになっている。奥久慈りんごは樹の上で完熟させてから収穫するのが特長。みずみずしさと甘みが際立つ。11月下旬頃までリンゴ狩りも楽しめる。
八溝山は茨城・福島・栃木の県境にある標高1021.8mの山で、茨城県最高峰。クルマで山頂まで到達でき、39年前の記事によると5つの林道が通じていたはずなのだが、現地の話によれば台風被害や落石によって大半が通行止めとなり、現在は大子町[だいごまち]から登っていく八溝林道のみが頂上まで通じているとのこと。全ルートを完走しようとここまで来たにも関わらず、落ち込む。八溝林道の入り口には大きな鳥居が立ち、クルマごと潜って進める。山頂にある八溝嶺神社[やみぞみねじんじゃ]の鳥居でここからが神域という印だ。山頂まで舗装されているとはいえ、道は細く、急な勾配やタイトなカーブが連続する。今回相棒に選んだインプレッサ スポーツ アドバンスは、e-BOXERを搭載しており、傾斜のきつい登り坂のコーナリングもモーターアシストがグイグイとサポートしてくれるのでストレスなく滑らかにさばくことができ、爽快だ。杉林を抜けるとブナやミズナラといった広葉樹林が続き、赤や黄に紅葉したトンネルを抜けて山頂に辿り着いた。山頂では八溝嶺神社へ参拝。展望台に登り、山頂から歩いて行ける湧水群を巡ることに。山頂からはハイキングコースが整備され、紅葉シーズンはハイカーに人気だ。山頂周辺には水戸光圀[みとみつくに]が命名したと伝わる八溝五水[やみぞごすい]があり、歩いて10分ほどで到達できる銀性水[ぎんしょうすい]と白毛水[はくもうすい]を訪れた。銀性水は残念ながら枯れていたが、白毛水からはチョロチョロと水が湧き出し、手ですくって喉を潤した。
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八溝山山頂に突如現れる城のような建物が展望台。
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八溝山展望台からは360度の大パノラマが広がる。西方向には左から日光男体山、女体山、会津駒ヶ岳、那須連山などが見晴らせる。
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八溝五水のひとつ、白毛水を手ですくう。
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白馬像の横の鳥居をくぐり、階段を上った先に八溝嶺神社の社殿が佇む。無事の登頂に感謝して参拝した。
クルマで山を降りる途中、右手に稜線が開けた展望地が現れた。場所は異なるものの39年前の誌面にあった夕景写真と瓜二つ。ちょうど日没時と重なり、同じようにクルマを置いてパチリ。夕陽がボディの滑らかなラインを際立たせ、いい記念写真が撮れた。
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39年前の記事にあった久慈川林道での夕景写真に似た風景に、八溝林道で偶然遭遇。夕陽に山の稜線とクルマのボディラインがくっきりと映える。
今宵の宿は39年前にも訪れた福島県の湯岐[ゆじまた]温泉。渓谷の紅葉に包まれた「和泉屋[いずみや]旅館」は素朴な趣だが、開湯は天文[てんぶん]3(1534)年という古湯。鹿が傷を癒しているのを初代が発見。嘉永[かえい]6(1853)年水戸藩の学者・藤田東湖[ふじた とうこ]が当地に2週間ほど滞在し、源泉が2カ所から出ていることから湯岐と命名したそう。江戸末期に棚倉藩[たなぐらはん]の殿様から湯守を任された証書や当時の絵図も残り、悠久の歴史を物語る。混浴の「鹿の湯」には今も自噴源泉があふれる。20代湯守の大森栄正[えいしょう]さんは話す。「490年近い歴史の中で最大の危機が東日本大震災でした。自噴が止まってしまい、1ヶ月後の余震を機に再び湧出しました。湯温は2度上がり39℃の適温に」。きっと湯の神様の思し召しに違いない。感謝を胸にとろみのある源泉を満喫した。
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鹿の湯は混浴だが、女性専用時間(20〜21時)もある。
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久慈川の鮎の塩焼き、北茨城の漁港で水揚げされた鮮魚のお造り、豚の味噌漬などが並ぶ夕食。
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大正時代の写真。上は鹿の湯、下は宿の外観。木造三階建の建物は平成初期まであったそう。
大正時代の写真。左は鹿の湯、右は宿の外観。木造三階建の建物は平成初期まであったそう。
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花崗岩の割れ目から湧き出る源泉と20代湯守の大森栄正さん。
39年の時を経て道や建物は様変わりしたけれど、土地の恵みは大切に守り続ける人々のお陰で今も変わらずに息づいている。これから先も変わらずにあり続けて欲しいと、心から願うのだった。
今月のルート
袋田の滝~瀧見茶屋~
八溝嶺神社~八溝山展望台~
湯岐温泉 和泉屋旅館
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イラストレーション・もとき理川
今月の紹介ポイント
袋田の滝
茨城県久慈郡大子町袋田
TEL 0295-72-4036
(袋田観瀑施設管理事務所)
営業時間:9:00〜17:00
(5〜10月は8:00〜18:00)
※滝のライトアップイベント「2020大子来人〜ダイゴライト〜」は11月は日没〜20:00、12〜1月は日没〜19:00
定休日:無休
入場料:大人300円
https://www.town.daigo.ibaraki.jp/
page/page001474.html
瀧見茶屋
茨城県久慈郡大子町袋田194
TEL 0295-72-3785
営業時間:9:00〜17:00
(滝のライトアップ時は〜20:00)
定休日:不定休
湯岐温泉 和泉屋旅館
福島県東白川郡塙町湯岐17
TEL 0247-43-0170
宿泊料金:1室2名利用で1泊2食付き
1名11,250円〜
https://yujimata-izumiya.net
注)新型コロナウイルス(COVID-19)の感染予防のため、営業時間・営業内容に変更が生じる場合があります。
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