みなさんはストレスのリセット法をお持ちだろうか。ありのままにくつろぐ時間を求め、北アルプスの山々に囲まれた高地「カミツレの里」にある「八寿恵荘[やすえそう]」を訪れた。日本初の「BIO HOTEL®認証*」を取得した癒しの宿で、日々をていねいに積み重ねることの大切さを見つめ直した。
*BIO HOTEL®とは、滞在するゲストの健康や自然環境への配慮に関する厳しい基準を規約とする日本ビオホテル協会(BHJ)の認証を受けた安らぎのあるホテル。BIO(ビオ)は、オーガニックを意味する。
峻険な山稜を
目指してドライブ
長野自動車道 安曇野[あづみの]ICを降りると、緑が広がっていた。田園風景が印象的な安曇野市では景色の美しさだけでなく、土や水の匂いや、せせらぎの音が心に癒しを与えてくれる。美術館も多く点在するこの地には、安曇野アートラインと呼ばれるコースもあり、ドライブには打って付けだ。大町市方面にしばらく走り、県道306号に差し掛かると、まだ白い雪を残した北アルプスがフロントガラス越しに高くそびえ立っていた。高瀬川沿いのこの道は、北アルプスパノラマロードの名を持つ。視界の良いフォレスター X-BREAKからの見晴らしは爽快だ。
標高1164mの鷹狩山山頂からは北アルプスの雄大な山々と安曇野平野が一望できる。
もうすぐ夏が来るとは思えない北アルプスの雪渓には形容しがたい美しさがある。もっと近寄りたいという好奇心に駆られ、勇壮な山並みを目指してアクセルを踏んだ。国道148号を進み、白馬村[はくばむら]に入ったところでぐんと峰筋に近づいた。近くにクルマを駐め、清涼な空気を肌に感じながら迫力満点の北アルプスを見上げた。この辺りは白馬岳[しろうまだけ]を含む白馬三山[しろうまさんざん](白馬岳、杓子岳[しゃくしだけ]、白馬鑓ヶ岳[しろうまやりがたけ]の総称)が格別に美しい。山の表情はいつまでも眺めていられるほどに、楽しみ尽くすことがない。自然の中に身を置いていると、からだの力みが取れ、気持ちがほぐれていった。近くで農作業をしていた地元の女性達も、時折腰を下ろして、ひと息つきながら雄大な山々を見つめていた。
カモミール畑のそばにあるツリーハウス。小屋を突き抜ける樹木に抱きついてパワーをもらった。
白馬村からは県道33号を南下し、池田町を目指した。内陸の長野県らしい木々に囲まれた道を進み、鷹狩山[たかがりやま]を越えると田植えに備えて水を張った田園が迎えてくれた。水面に映る雲や山の姿に思わず見とれる。ハーブの名所として名高い池田町は実にのどかな町だ。日本の原風景とはこういう景色のことを言うのだろうかとノスタルジーに浸りつつ、さらなる癒しを求めてカミツレの里へ向かった。
4万坪のカミツレの里に佇む八寿恵荘。「八寿恵」とはこの地に住んでいた北條さんの祖母の名。
ちなみに、カミツレとはカモミールの和名。
池田町中心部を抜け、標高800mの高地にあるカミツレの里へと続く坂道をX-BREAKはパワフルかつ軽快に駆け上がる。標高が高くなるにつれ、季節が逆再生されているかのように、まだ春先を残す山色が窺えた。10分程走ると、北アルプスの山々に囲まれた広大な敷地の一角に八寿恵荘[やすえそう]があった。
無垢材に包まれたお宿で
“森林浴”
柔らかな印象の杉の玄関扉を開けると、宿いっぱいに広がる天然木の香りが心地よい。地元の無垢材を使って造られている八寿恵荘。天然木本来の柔らかな風合いにからだも心も安心する。「宿の中ではどうぞ裸足で歩いてください」と代表の北條裕子[きたじょうひろこ]さん。池田町産の赤松を使用した床は、味わいのある木目とやさしい肌触りに温もりを感じた。無垢材は人と同じように呼吸をしている。湿気を吸って膨張し、乾燥すれば縮んで隙間ができる。季節ごとに変わるという自然素材の表情は八寿恵荘の味わいのひとつだ。
安心でからだにやさしい料理を「だいにんぐ」でいただく。桜のテーブルと栗の椅子はすべて手造り。
館内の床全面には赤松の無垢材が使われている。
八寿恵荘を経営する北條裕子さん。
経営拠点の東京から池田町に来ることが北條さんのストレスリセット法。
食べるもの、肌につけるもの、身に着けるもの、身を置く環境にこだわり抜いて4年前にリニューアルし、日本初のビオホテルジャパン認証を取得した八寿恵荘。健康や自然環境に配慮した安らぎのある宿として、これまで訪れてきた多くの人々を癒してきた。オーガニックな衣食住の本質は自然との調和の中で自分を労[いた]わることだと北條さんは教えてくれた。
薪割り&かまど炊飯体験は夕食前に毎日開催。薪割りは、力まずに振りかざした斧をストンと落とすのがコツ。
パカンと割れる薪の音が気持ちよい。
カミツレの里で採れた原料を使ったカモミールティーとカモミールビスコッティ。健胃作用があり、お腹にやさしい。
動物性食材不使用の「べジ・おむすびランチ」。
カミツレコロッケが人気の一品。
夕食前の楽しみはかまど炊きを体験できること。土間の近くで薪割りをし、その薪を使って手造りかまどで火をおこす。北アルプスの水と有機米を羽釜で炊き上げるのは人生初体験だった。パチパチという音が美味しい仕上がりの合図だ。手造りの木のテーブルと椅子が並ぶ温かみのある「だいにんぐ」で、おこげの付いた羽釜ご飯をはじめ、敷地内の「おやさい畑」で採れた新鮮な無農薬野菜が盛り沢山の贅沢フルコースをいただく。カミツレの里をイメージしたサラダやカミツレのコロッケなど、素材の味を活かした料理にお腹も心も満足した。
カミツレエキス100%の入浴剤は保湿効果が抜群。
からだを芯から温める。
宿の正面にあるカミツレエキス製造工場。
「華密恋の湯」に使われている国産カミツレエキスの生産工程を見学。
夕食後は八寿恵荘自慢の「華密恋[かみつれん]の湯」を堪能する。カモミールから抽出したカミツレエキスがたっぷり入った濃密なお湯は、甘く豊かな香りをまとい琥珀色に輝いていた。なめらかな湯触りが気持ちよい。大きな窓の外に広がるカモミール畑は5月中旬から6月にかけて花が見頃だが、四季折々で美しい景色を味わえる。湯上り後は心身ともにすっかりリセットされて肌あたりの柔らかな布団に包まれ、いつしか夢の中へ。
鳥の声でいつもより早く目覚めた翌朝。「ふれあいの間」にあるハンモックに揺られ、何もしない贅沢な時間を過ごした。健やかにしなやかに、自然素材の中でくつろぐ生活のありがたみを実感する。簡単なようで意外と難しい、素の自分と向き合う穏やかな時間がそこにはあった。
カミツレの里にある自社農園「おやさい畑」を過ぎた先の ワインディングをX-BREAKで駆け上がる。
今月のルート
安曇野I.C.~白馬村~鷹狩山~
カミツレの里~八寿恵荘
ビオホテル 八寿恵荘
長野県北安曇郡池田町広津4098
TEL 0261-62-9119
宿泊予約受付時間:9:00〜18:00
休館日:不定期
https://yasuesou.com
八寿恵荘は、BIO HOTELS JAPAN認証を取得しています
※「華密恋の湯」は日帰り入浴も可能。ご利用希望の方は宿にお問い合わせください。
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