SUBARU on the Road
古人[いにしえびと]の歩んだ道と、
見上げた空と
時代の面影を追いかけて
長野県妻籠宿[つまごじゅく]~岐阜県郡上八幡
新年最初のSUBARU on the Roadは、江戸期の街道風情を今も感じることができる旧中山道の宿場町妻籠宿から中津川に抜け、南北街道(国道257号)・益田街道(国道41号/256号)を経て奥美濃の郡上八幡に至るプランを立てた。冬季は路面が凍結することもあるこのルート。旅の相棒には頼りになるフォレスターAdvanceをピックアップした。頼もしくなめらかな走りで、歴史の面影とダイナミックな自然造形を愉しめるツーリングを堪能した。
江戸の風景を
リアルに伝えた郷土愛
妻籠宿からタイトなコーナーが続くワインディング路を馬籠峠方向に走って10分ほど。馬籠峠の手前左手に一石栃立場茶屋[いちこくとちたてばちゃや]がある。未舗装の狭い急坂をX-MODEをONにして慎重に降り、草地の広場にフォレスターを停めて朝のやわらかい陽が差し込む茶屋を訪ねた。旅人に無料でお茶を提供する、土間に面した広間では“妻籠を愛する会”の理事長を務める藤原義則さんが囲炉裏に薪をくべながら迎えてくれた。藤原さんによると、この場所にはかつて白木という樹皮を剥いだ木材をチェックして伐採禁止木の出荷を統制する“白木改[しらきあらため]番所”があったそうで、先ほどフォレスターを停めた広場は番所跡だそうだ。茶屋は明治元(1868)年に建造されたもので、今も水道が引かれていないため近くの清流から水を引いて利用している。それにしても150年以上前の家屋が今もこうして利用できるというのは驚きだ。
「家というのは人が使っていれば日々掃除をしたり傷を補修したりしますから、神社仏閣のような立派な建造物でなくてもこうして長持ちさせられるのです」
茶屋は藤原さんを始めとする5人のボランティアスタッフが交代で当番しながら、一年のうち年末年始を除く359日間、訪れる人たちをもてなしている。茶屋は妻籠宿から峠を越えて馬籠宿[まごめじゅく]に至る約9kmの旧中山道を歩く人たちが休憩所として立ち寄る。藤原さんたちはハイカーたちと積極的にコミュニケーションをとることで、来訪者の詳細なデータを作成している。それによると、これまで世界82ヵ国から来訪があり、欧州・北米・豪州の人が78%を占めているという。
「彼らはこの道をサムライルートと呼んでいて、伝統的な街並みや歴史のある街道を自分の足で歩くことを楽しみにして来るのです」と藤原さんは言っている。
“妻籠を愛する会”が主体となって妻籠宿では江戸中期から明治の半ばまでに建てられた約230戸の木造家屋が当時の姿のまま保存されている。保存活動が始まったのは1968年頃のことだ。高度経済成長期の当時、著名な建築家から“囲炉裏の薪にしかならない”と評されたぼろぼろの木造家屋群だったが、「ここには明治の空気と空がある」と当時の長野県企業局長がその観光価値を評価し、産官学が協力して集落の保存に注力するようになったという。
「そのときの決断がなければ、今のように世界各地から旅人が訪れる場所にはならなかったでしょう」と藤原さん。
海抜750mの場所にある一石栃立場茶屋は、これからの時期はマイナス12℃に冷え込むこともあるそうだ。それでも“妻籠を愛する会”の人たちは囲炉裏の火を絶やすことなく毎日、旅人を出迎えている。寒さが厳しいときほどその火のぬくもり、清流を使って淹れたお茶の温かさが身に沁みることだろう。
妻籠宿から馬籠宿を経て国道19号を走り中津川の町に抜ける。ここから郡上八幡に行くには、中央道から東海北陸道へ抜ける高速道路があるのだが、今回は国道257号を北上するルートを選んだ。澄んだ空の下、田園地帯が広がるのどかな風景の中をマグネタイトグレー・メタリックのフォレスターが軽快に走り抜ける。沿道には小物から家具、家まで、さまざまな木材製品を扱ったお店や道の駅が次々と現れ、ついつい寄り道をしながら気ままなドライブを楽しめる。
帯雲橋交差点で左折して橋を渡り国道41号に入ると風景は一変する。飛騨川沿いを走るこの道では、巨大な石の壁が形作る峡谷が続くダイナミックな風景を楽しむことができる。ほどなく郡上方面へ右折して国道256号を西に向かって走る。途中、長いトンネルを出たところでダム湖沿いの道に入り、縄文時代の史跡“金山巨石群”に立ち寄った。山の斜面にいくつもの巨石が散在する不思議な場所で、鎌倉時代のヒヒ退治伝説が残っているほか、巨石は意図的に配置されたもので、縄文時代に太陽の運行を観測した場所だったという説もある。縄文時代にこれだけの大きさの石を移動したとは俄かには信じがたいが、石のパワーによるものか、この場所にはどこか神秘的な気配が感じられるのも確かだ。そんな力に惹かれるのだろうか、バイクやクルマがひっきりなしに訪れ、皆巨石の間を思い思いに散策していた。
奥美濃に脈々と息づく、
ものづくりスピリット
国道256号で郡上八幡に入るためには最後に狭くて急峻なつづら折りの道を下らなければならない。道のすぐ横までごつごつした岩肌が張り出しており、道幅も急に狭くなるところがあるため、対向車に注意しながら慎重に走っていく。すると、左手の眼下に美しい白壁の天守閣とさらにその下に広がる郡上八幡の街並みが見えてきた。郡上八幡城は幕末期に取り壊され、石垣だけが残された状態だったが、昭和8(1933)年に天守が再建された。再建された木造の天守閣としては日本最古のものだそう。
旅の締めくくりに訪ねたのは郡上八幡の町中にある岩崎模型製造に併設された“サンプルビレッジ・いわさき”。サンプルというのは、飲食店のショーケースに展示されている食品サンプルのことだ。郡上八幡にはこの食品サンプルを作っているメーカーが数軒あり、その原点となったのが岩崎模型製造なのだ。スタッフの池戸陽子さんがサンプルビレッジ・いわさきの中にある資料コーナーを案内してくれた。
「創業者の岩崎瀧三は、奥美濃の左甚五郎と呼ばれた木彫り名人末吉の次男で、手先の器用な方でした。食品模型の開発にはこれが大いに役立ったようです」
資料コーナーには昭和7(1932)年に試作に成功した食品模型第一号の「オムレツ」も展示されている。妻のすずが作ったオムレツをかたどったものだという。
館内にはお寿司やてんぷら、パフェやピザなど、ありとあらゆる食品サンプルが並んでおり、スケールダウンしてキーホルダーなどに加工されたものも販売されている。食品だけでなく、二代目社長の恩田道夫氏が原型を製作した「鮎」や「あまご」などのリアルな川魚ストラップも魅力的だ。
「最近のヒット作は本物と同じやわらかさを実現したバターロールです」と池戸さん。食品サンプルはついに触感まで再現できるようになったのかと驚かされる。木彫に端を発するこの地のものづくりの伝統は、リアルな食品サンプルを作るための飽くなき探求心として、今も脈々と息づいていた。
今月のルート
妻籠宿~一石栃立場茶屋~馬籠峠~馬籠宿~中津川~恵那峡大橋~岩屋岩蔭遺跡~郡上八幡城~サンプルビレッジ・いわさき
今月の紹介ポイント
一石栃立場茶屋
住所:長野県木曽郡南木曽町吾妻下り谷1612-2
TEL:0264-57-3098
開業時間:9:00~16:00(3月20日~11月30日)
10:00~15:00 (12月1日~3月19日)
休業日:12月29日~1月3日
サンプルビレッジ・いわさき
住所:岐阜県郡上市八幡町城南町250
TEL:0575-65-3378
サンプル作り体験料金
Bセット(天ぷら1品/レタス1玉) 1000円
別売盛り付け用かご(大) 200円
※金額は令和4年12月現在
注)新型コロナウイルス(COVID-19)の感染予防のため、営業時間・営業内容に変更が生じる場合があります。事前に各スポットへお問い合わせください。
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