カートピア2月号 TOURING With SUBARU SUBARU BRZ STI Sport

店内からこぼれる明かりが美しい、日没後の工芸品店objects。しなやかに立つ柳の木が風情を添えていた。

Touring with SUBARU

自然と文化が息づく島根
器めぐりの旅

島根県出雲市~松江市

店内からこぼれる明かりが美しい、日没後の工芸品店objects。しなやかに立つ柳の木が風情を添えていた。

県土の約80%を山地が占め、北側は日本海に面している島根県。2015年に松江城天守が国宝に指定された。このような豊かな風土に育まれた多彩な工芸文化が今もなお島根県の観光を盛り上げているそうだ。
今月は夕景の美しさで知られる宍道湖[しんじこ]沿岸をコースに定め、伝統が薫る器をめぐる。道中、くつろぎの時が流れる湖畔のカフェでひと休みするのも良い。旅の醍醐味である出会いを大切に辿る、島根の旅路。

体感することが安らぎの原点


出雲市内を起点に、日本百景の一つである宍道湖[しんじこ]の南岸を通る国道9号を松江市街地方面に向かって走る。陸地へ吹き込む湖風が些か冷たい。「八雲立つ出雲」の名の通り、実に雲が多いのが印象的だ。時折雨を感じさせる空は、到底良い天気とは言い難いが、雲間から覗く光が何とも幻想的で雨奇晴好の眺めである。宍道湖を横目に、点滅式の信号が多くスムーズな道を軽快に進む、旅の相棒はレヴォーグ。ミラー越しに見える洗練されたホワイトのボディは、僅かに輝く湖面の光を受け光沢感に包まれる。

宍道湖南岸を半分ほど行った所にある、焙煎珈琲工房 梢庵[しょうあん]でひと休みすることにした。入店すると、水琴窟の澄んだ音が集音マイクによって店内にBGMとして響き渡っていた。奥へ進むと、宍道湖の壮麗な眺めを一望できる木造テラスがあった。すぐそこに広がる清涼な青い湖面は息をのむ美しさだ。晴れ間が覗きつつあるテラス席に腰を下ろすと、汽水湖のせいか、ほのかな潮の香りが体に染み渡り爽快だ。夕日の名所と言われる宍道湖畔で贅沢な時が流れる。お腹も空いてきたので梢庵セットを注文した。

プロバット社の焙煎機と並ぶのは焙煎珈琲工房 梢庵の店主・豊田文男さん。店内で販売する生豆を購入すると自身でローストすることもできる。

プロバット社の焙煎機と並ぶのは焙煎珈琲工房 梢庵の店主・豊田文男さん。
店内で販売する生豆を購入すると自身でローストすることもできる。

島根県内各地45の窯元で作られた珈琲カップをご用意していて、お好みのカップをお選びいただける

「島根県内各地45の窯元で作られた珈琲カップをご用意していて、お好みのカップをお選びいただけますよ」と物柔らかに説明して下さったのは店主の豊田文男さん。UCC上島珈琲に33年勤めた豊田さんは、故郷の島根に転勤した際に活気が無いことが気になったという。そこで、UCCで得たノウハウを活かし、「安らぎとくつろぎの中で珈琲のある楽しさ」をコンセプトに19年ほど前に開いたのが梢庵だった。「珈琲を提供する中で、味わいはもちろん、器の手触りや選ぶ楽しさ、見えるもの、聞こえるもの、口にするもの、どの角度から見ても心に響くような店づくりを行なうことで、お客様の癒しに繋がれば本望です」と話す豊田さん。くつろぎをテーマに自然のなりゆきで島根に根付く窯元の器を取り入れたという。心尽くしのもてなしはバリアフリー設計にも顕著に感じられた。

宍道湖の夕景がテーマの高橋幸治窯の珈琲カップセット。

宍道湖の夕景がテーマの高橋幸治窯の珈琲カップセット。

店内に置かれた水琴窟。

店内に置かれた水琴窟。

梢庵セット(1050円・税込)。「食の安全、安心、美味しい」が梢庵メニューのモットー。

梢庵セット(1050円・税込)。
「食の安全、安心、美味しい」が梢庵メニューのモットー。

運ばれてきた梢庵セットはボリューム満点。色彩豊かなプレートは見た目にも美味しい。マイナスイオンが豊富な薬師秘湯の温泉水を使った珈琲の香りだけで空腹が満たされていく。梢庵ブレンドは引っ掛かりが無くストンと体内に落ちていき、飲みやすい。島根の器が「用の美」であるとはよく言ったもので、手触りの良さと使いやすさに心が満たされた。穏やかな気持ちで梢庵を後にし、手応えのあるステアリングを握った。

テラス席からは宍道湖を一望できる。

テラス席からは宍道湖を一望できる。

使いやすさに感じる、
手仕事の温もり


宍道湖の夕景とレヴォーグ 1.6GT EyeSight Smart Edition。天使のはしごが美しい。

宍道湖の夕景とレヴォーグ 1.6GT EyeSight Smart Edition。天使のはしごが美しい。

雨を弾く宍道湖南岸とは対照的に、到着した松江市街の空は明るく、天使のはしごが降りていた。山陰地方では「弁当忘れても傘忘れるな」という、移り変わりの激しい天気を象徴する言い回しがある。天気を気にせず、空の気分に委ねるドライブは意外に楽しいものだ。

松江城天守をはじめ造成当時の掘割や街並みを今に残す城下町、松江。情緒あふれる街並みは、時の移ろいを穏やかに感じさせる。宍道湖と中海を繋ぐ大橋川の沿岸に、一際レトロな建物があった。築70年以上の紳士服店を改装したという外観は、まさに「インスタ映え」だ。胸のときめきを連れて、セレクトショップobjectsへ足を踏み入れた。

温かみのあるやさしいオレンジの照明が印象的なobjects店内。

温かみのあるやさしいオレンジの照明が印象的なobjects店内。

ほのかに青みがかった白と巧みな形が特徴の石飛勝久さんの白磁。

ほのかに青みがかった白と巧みな形が特徴の石飛勝久さんの白磁。

自分の足で全国各地の窯元やセレクトショップに赴き、手に取って、 買い付けを行なうというobjectsの店主・佐々木創さん。

自分の足で全国各地の窯元やセレクトショップに赴き、手に取って、買い付けを行なうというobjectsの店主・佐々木創さん。

陶器、硝子、木工、染織物を中心に、多彩な工芸品が全方位に並ぶ店内。各工芸品の特長を生かした上品な配置は見応えがある。陶器が多い店内で目を引いたのは石飛勝久さんの白磁だった。磁器は石の粉を原料とするため艶があり、硬くて丈夫なので扱いやすい。手に馴染む白磁に安心感を覚えた。店内のオレンジの照明も心に温かい。「実はこのランプも売り物なのですよ」と気さくにお声がけ下さった店主の佐々木創さん。8年前に奥様と埼玉県から松江市に移住し、その後二人三脚でobjectsを営み、今に至るとのこと。もともと工芸品が好きで、陶房や器店をめぐることが趣味だったという。近年の手仕事ブームは、約20年前に柳宗悦さんの息子である柳宗理さんの工業製品が再評価されたことがきっかけではないかと教えて下さった。柳宗悦と言えば、無名の職人による誠実な手仕事から生まれた身近な工芸品を「民藝」と名付けた人物。用途を想定し丹念に作った工芸品だからこそ、使い手の心の充足が美しいという「用の美」を唱えたとも言われている。

彩りにあふれた湯町窯の陶器が並ぶ棚。

彩りにあふれた湯町窯の陶器が並ぶ棚。

objectsは日本各地で約25組にも及ぶ作家や同業者と提携を結び、工芸品を広める架け橋となっている。「県外からのお客様が半分強を占めます。近くの出西窯、湯町窯、袖師窯などの昔からある窯元をめぐった後にお越しになる方も多いです」と佐々木さん。時代を超えて愛される器には、作家の無心の努力が美しさとなって宿るからこそ、惹きつけられる。店内から眺める大橋川は日の光を浴びて健康的な輝きを放っている。窓際に置かれた硝子器で光が踊るように反射し、店の外を歩く人々を美世界へ誘っていた。

目移りしている間にすっかり暗くなった宍道湖北岸の国道431号を走り、帰路に就いた。

今月のルート


焙煎珈琲工房梢庵〜objects

今月の紹介ポイント


焙煎珈琲工房 梢庵

島根県松江市玉湯町林223-3
TEL 0852-62-9898
営業時間:8:00〜19:00
定休日:大晦日、元旦
※店舗改装工事のため、2019年2月5日(火)~2月20日(水)の16日間、一時休業とさせていただきます。
https://www.sho-an.jp/
※梢庵ブレンドはオンラインストアからもお買い求めいただけます。

objects

島根県松江市東本町2-8
TEL 0852-67-2547
営業時間:11:00〜19:00
定休日:不定休
http://objects.jp/
※クルマでお越しの方は、何か1点でもお買い上げがあれば、川沿いの並びにあるパーキング1時間分のサービス券がお会計時にいただけます。

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