ここがSUBARUです。Vol.39
新型インプレッサ、SUBARU XVに
標準装備された
歩行者保護エアバッグ
歩行者保護対策の歩み
クルマの安全対策はクルマ同士が衝突するような大きな衝撃を受けたときに車内の乗員を守るための取り組みが先行されてきました。シートベルト、SRSエアバッグ、そして衝撃を効率良く吸収するフレーム構造と、乗員を守る強固なキャビンの設計などです。
その後、クルマが歩行者と衝突した際に歩行者への傷害を軽減するための研究が始まったのですが、こちらはまだ歴史が浅く、各国の自動車アセスメントに加わったのも2000年代に入ってからのことです。SUBARUでは、バンパーやボンネットを柔らかい衝撃吸収構造とすることや、万が一歩行者がクルマに乗りあがった場合、エンジンブロック回りの固いものに頭部が直接当たることが無いよう、ボンネットとエンジンの間に空間を設けるといった取り組みを行なってきました。地道な対策の積み重ねにより、JNCAPの歩行者保護性能でもトップレイティングのレベル5の評価を得ています。
頑丈なAピラーの下端を覆う
今回、スバルグローバルプラットフォームの導入に際して、従来にも増して歩行者保護性能を高めるためにトライしたのが、歩行者保護エアバッグの採用でした。
このエアバッグの狙いは、歩行者の頭部がクルマのAピラー(フロントガラス両脇の柱)と衝突した際のダメージを軽減することです。先に触れたように乗員を守るためにキャビンは強固に作られています。Aピラーはそのためにとても重要な部分であり、歩行者のために柔らかくすることが困難です。そこで、歩行者が衝突した場合のみエアバッグでこの部分を覆い、頭部への衝撃を緩和するのが歩行者保護エアバッグの役割です。
6㎝の隙間
SUBARUの歩行者保護エアバッグの研究は、2000年初頭から行なわれていました。他メーカーでは、衝突時にボンネットの後端がポップアップする機構や、ボンネット内部にエアバッグを収納するタイプなどが商品化されていますが、それらは機構が複雑なため非常に高価です。もっとシンプルな構造で、全車に標準装備したいというのがSUBARUの考えでした。
検討のベースとした先代インプレッサにはボンネットとガラスの間に約6㎝幅のスペースがあり、『この小さな隙間からエアバッグを開けないか?』と考えました。エアバッグは展開すると袋状に前後に膨張しようとしますが、6㎝のスペースを通り抜ける間は前後膨張を抑え、そこを越えたら速やかに開く。この展開挙動を作り出すための構造検討が非常に大変でしたが、各設計・実験部門と協議を重ね、エアバッグが単体で開くシンプルな構造を実現しました。
あらゆる状況を想定して
エアバッグ展開を判断するためのセンサーはフロントバンパー内部のシリコン製チューブの圧力センサーです。センサーの前には内側に突起を設けたセンサーカバーを取り付け、歩行者がバンパーのどこに当たっても安定して衝突判断ができるようにしています。また、様々なテストを繰り返し、パイロンや雪の壁と衝突した時や、深い水たまりに突入したような時に誤展開しないように細かく制御しています。センサー関連の部品が樹脂製なので温度変化には特に気を配りました。バンパー内部に温度センサーを追加し、走行状況によって微妙に変化する温度を常に正しく把握しています。センサーが誤判断するほどの急な温度変化が起きるのは、渋滞を抜けて走り始めるようなごく限られた状況なのですが、実際に起こりうるありとあらゆる状況を想定し、漏れなく対策すること。それがSUBARUのモノ造りです。
歩行者保護エアバッグの採用により、歩行者の頭部への傷害値(赤い色が傷害値大)が大幅に改善された。これによりJNCAPの衝突安全性能評価で歩行者保護性能96.07点(100点満点)を達成。
今月の語った人
橋本善之
第一技術本部 車両研究実験第二部 車両研究実験第三課
1981年埼玉県宮代町生まれ。子どもの頃からバイク好き。きっかけは、祖母の家にあった古いバイクを従兄と一緒に分解して遊んだこと。そこから機械いじりに興味が芽生え、高等専門学校に進学して機械工学を専攻した。SUBARUに入社してから、“味のあるバイクを買おう”とトライアンフT90 69年式を購入。トライアンフで最も気に入っているのは、空冷OHV2気筒のエンジンの美しさと排気音。エンジンをかける際には様々な手順が必要なことも楽しみのひとつだった。現在の愛車はSUBARU XVで、スノーボードやゴルフ等にアクティブに使っている。
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