ここがSUBARUですVoL.87
新型LEVORG STI Sport/
STI Sport EX に新採用した
エアコンマイルドモード
みんなで作った
SUBARUの優しい風
稲葉:エアコンのマイルドモードを作るきっかけとなったのは、新型レヴォーグSTI Sportにドライブモードセレクトが設定されたことです。5つのモードのうち、高級車のようなしなやかな乗り心地を実現するコンフォートモードに合わせ、より幅広いお客様に快適にお過ごしいただける特別な空調制御を開発しようということになりました。開発時に特に意識したのは女性の視点です。従来のクルマのエアコンは“寒すぎる”とか“車内が乾燥する”という声がありました。改めて詳しく調査してみると、男性に比べて女性は温度、湿度の変化に敏感で、特に風を苦手にしていることがわかりました。
車内の温度を上げ下げするためには、エアコンの風量を変えるのが最も効率的です。また、クルマはウインドゥを曇らせないことも重要であり、そのために、車内の湿度を低く抑え、敢えて乾燥した状態にする必要もありました。しかし、狭い空間で足元の吹き出し口から乾燥した強い風を送ると、その風が顔周辺まで上がってきてしまい、これが女性にとっては快適とは言えない車内空間を作る原因でした。
そこでまず、従来より風量を抑えた試作モデルをいくつか作り、開発部門以外の方にも協力頂き、社内の女性社員による試乗評価を実施しました。しかしながら、風量を少し減らすだけでは体感として変わらない、逆に風量を減らしすぎると寒い、乾燥感は変わらないと評価されて、非常に悩みました。
男性が想像する以上に風量と乾燥を抑え、足元を暖かくしなければ、女性には満足頂けないことが分かりました。風量・風温・除湿量をチューニングした試作モデルを何度も作り、そのたびに女性社員に試乗評価に協力してもらいながら制御を作り込んでいきました。
三野:車内に送る風は、車内外から取り込んだ空気を、熱交換器で除湿・冷却し、必要に応じエンジンの熱を利用して適切な温度に加熱して作ります。熱交換器での除湿・冷却量は、冷媒ガスを圧縮するコンプレッサーの仕事量によって決まります。乾燥を防止するためには、コンプレッサーの仕事を抑え、内気循環を積極的に使うことで実現できます。
ただし、これはウインドゥの曇りやすさに直結するため、高い精度で車内の温度と湿度を計測し、除湿量をコントロールする必要があります。そこで、コンプレッサーは従来のON(出力100%)・OFF(出力0)のみのコントロールしかできなかった固定式から、0〜100%までの間で出力を自在にコントロールできる可変式にしました。また、車内の温度と湿度を精度良く計測できる車両湿度センサーも採用しました。
稲葉:これまでに積み重ねてきた試験データから、外気と車内温度の差、湿度が分かれば窓ガラスが曇り始めるタイミングを正確に把握できます。窓が曇りそうになってきたら自動で外気導入に切り替えたり、コンプレッサー出力を必要な量だけ増やして除湿機能を高めたり、という新しい制御マップを作り、設計、実験、サプライヤと検討を重ね、実現しました。これに加え、スバルグローバルプラットフォームに合わせて開発した新造形の足元吹き出し口が、足元の暖かさを確保する上で非常に大きな効果を発揮しています。
三野:女性社員が共同評価を繰り返し、私は設計者として制御ロジックの検討も行ない、最終的には「風を感じないのに涼しくて快適」「冬はこたつのように快適。乾燥も気にならない」「コンタクトレンズが乾かない」などの評価を得られる、自信作になりました。
稲葉:マイルドモードは、エンジンの力で動くコンプレッサーの負荷を下げることになるため、燃費の改善やドライビングフィーリングの向上というメリットもあります。
稲葉・三野:SUBARUのスタッフみんなで作り上げた新しい風をぜひ、体験してください。
今月の語った人
三野 綾花(写真左)
電子プラットフォーム設計部 電子プラットフォーム設計第三課
香川県坂出市出身。地元の自慢はやっぱりうどん。カレーうどん、ぶっかけうどん、肉うどん等、うどんの種類によって異なるお店に出かけるそう。“うどん県”香川の初心者にはぶっかけうどんがおすすめ。最近は生後12ヶ月のペルシャ、同じく6ヶ月のマンチカンと一緒に寝ているだけでリフレッシュできる。
稲葉 雅俊(写真右)
車両研究実験第三部 車両研究実験第六課
静岡県富士宮市出身。学生時代は石川県金沢市で過ごす。バイクツーリング、キャンプ、スノーボードが趣味。1年前に手に入れたオーストリアKTM製の排気量1300ccの大型バイクに乗って、キャンプツーリングやサーキットに出かけるのが暖かい季節の息抜き。冬場は、毎週雪山に行き、朝から晩まで滑り続けている。
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