ここがSUBARUですVoL.99
ソルテラの
X-MODE・グリップコントロール
SUBARU・トヨタの知見を活かした新機能
ソルテラはSUBARUとトヨタが共同で開発した電気自動車です。私はSUBARUの電動系車両の開発部門でe-BOXERの制御設計を担当していましたが、ソルテラを開発するため2019年4月にトヨタのZEV(ゼロエミッションビークル)ファクトリーに出向しました。ZEVファクトリーはトヨタとSUBARUのエンジニアが一堂に会し、会社の垣根を越えて互いが持っている技術、知見を共有しながら新しい車両を開発するという従来には無いプロジェクトでした。その中で私に託されたテーマは、トヨタが持つ電動車の知見を活用し “走る愉しさ”“意のままの走り”というSUBARU車として欠かせない価値を実現することでした。
EVには最重量パーツであるバッテリーを床下に搭載したことによる“低重心”と、低回転から大トルクを発生するモーターの出力特性による“ドライバーの操作に対する応答性の良さ”というクルマの素性としてのメリットがあります。そこに左右対称レイアウトのシャシーをベースにサスペンションや電動パワーステアリングなど各部にSUBARUの知見を注ぎ込むことで、軽快で快適な走りを実現するe-スバルグローバルプラットフォームを造り上げました。さらに車両前後に2つのモーターを搭載したAWDモデルには滑りやすい路面や雪道、オフロードを走行する際に4輪の駆動力やブレーキを適切にコントロールしてスムーズな脱出をサポートするX-MODEを採用しました。X-MODEは既にフォレスターやSUBARU XVなどに装備した定評ある装備で、路面状態に合わせてSNOW・DIRTとDEEP SNOW・MUDの2モードを選ぶことができ、滑りやすい急な下り坂ではドライバーがブレーキ操作をすることなく車速を一定に保つヒルディセントコントロール機能を備えています。
ソルテラは電気自動車ですが、X-MODEで目標とするクルマとしての振る舞いはガソリンエンジン車(機械式AWD)と変わりません。あらゆる路面状況や走行条件において、4輪をどう制御すれば安定した挙動が得られるのかというX-MODEの知見をソルテラにも活かし、前後2つのモーターの出力と4輪のブレーキを制御します。フォレスターのX-MODEと同レベルの走破性能を目標とし、SUBARUの試験路を使い、フォレスターとまったく同じ評価項目を設定して開発しました。結果としてEVだからエンジン車に劣るというところはなく、フォレスターと同等以上の性能を実現しています。さらにモーターはエンジンと比べると段違いに応答性が良く駆動力を緻密に制御できるため、丸太や石などのギャップを乗り越えるような場面では、より滑らかにドライバーのイメージ通りに出力をコントロールできます。
グリップコントロールは“不慣れな路面や運転操作に気を遣う場面でさらなる安心感を提供したい”という開発スタッフの思いからX-MODEの開発過程で追加された機能です。人が歩くことができないようなつるつるの凍結路面や、車輪が浮き上がってしまうようなモーグル路でも、グリップコントロールをセットすればアクセル、ブレーキ操作はクルマに任せ、ドライバーはステアリング操作に集中できます。X-MODEをセットしてグリップコントロールスイッチを操作すれば、時速約2km~10kmの範囲で5段階の速度を設定でき、クルマは設定速度をキープして自動で前進します。途中でドライバーがブレーキを踏んだ場合はブレーキ操作に応じて減速し、ブレーキ操作を止めると設定速度に復帰します。
グリップコントロールのように、開発の途中でも絶え間なく現場から要望が出てきて、機能が追加されるのはSUBARUらしいところです。今回はSUBARUが目標性能やクルマのふるまいなどについて要望を出し、トヨタが持つ電動車の知見やオフロード向けの制御技術を活用することで、求める機能を実現できました。ソルテラのX-MODE・グリップコントロールはSUBARUとトヨタが持っている核心となる思想・技術を共有することで完成した、今回の開発を象徴する機能と言えるでしょう。
今月の語った人
和田 直也
トヨタZEVファクトリー ZEV B&D Lab
千葉県松戸市生まれ。幼い頃からクルマ好きで家の近くにあった国道を通るクルマを見て車名をすべて言うことができた。その中でWRブルーに黄色いステッカーを貼ったインプレッサWRXの記憶は今も鮮烈に残っているという。免許を取得してからは運転してSUPER GTの観戦に出かけ、WRCをTVや雑誌でフォローしていた。お気に入りのドライバーはペター・ソルベルグ。現在は愛車のレヴォーグで、宿泊先だけを決めて全国各地を気ままにドライブしているそう。4年ほど前からそんな旅の際に神社仏閣を訪れて御朱印集めも始めた。
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