ここがSUBARUです。VoL.50
丈夫なピラーでキャビンをしっかり守りながら、
優れた運転視界も備えた
インプレッサの後方・側方視界
直接視界を大切にする
皆さんがクルマで後退するとき、一番良く見ているのはどこかを思い出してみてください。最近のクルマはリヤビューモニター等の運転補助装置がありますが、まず振り返り自分の目で直接後方を見る直接視界とミラーによる間接視界で全体を確認し、次に電子デバイスに頼りながら後退をしています。どれだけデバイスが発達しても、人には元来直接視覚に入って来る情報を信頼するという習性があるのです。だから、後方と側方の直接視界が良いということはそれだけでドライバーの安心感を高めることにつながります。
後方と側方の直接視界を向上することは具体的な効果もあります。たとえば左のレーンに車線変更しようとする場合、ミラーの死角になってしまうエリアがあります。リヤウインドゥやリヤクォーターガラスが広ければ、レーンチェンジの際にその死角にあるモノに気付くことができます。後退時に脇から子どもが出てきたようなシーンでも、リヤクォーターガラスを大きく、低く設定しておけば気付くことができます。
以上のような理由から、私たちは直接視界を常に重視してクルマを開発しています。
ピラーの太さとデザイン性
直接視界を向上するためにはピラーを極力細くし、ガラスエリアを広げれば良い。しかし、ピラーには万が一の事故の際にキャビンをしっかりと守るという重要な役割があります。また、ピラー内部にはエアバッグやハーネス類、内装材(トリム)を留めるクリップやシートベルト機構に関連する装置を入れなければなりません。これらのパーツを無駄なく入れ、さらに強固なものに仕上げるためには最低限必要な太さが決まってきます。最近のクルマが昔のクルマよりもピラーが太くなってきている背景にはこのような理由があります。
もうひとつ、エクステリアデザインもピラーやガラスエリアの広さと密接に関係しています。端的に言うとガラスエリアを小さくした方がデザインの自由度が高まり、よりカッコ良いクルマにすることができます。特にSUV系の車種ではこの傾向が強くなってきています。デザインも重要ですが、直接視界を確保することは、お客様の命を守るためにSUBARUとしては絶対に譲れないところでもあります。
十分な衝突安全性能やデザイン性を確保しながら、良好な直接視界を実現するため、私たちは“ドライバーから見たピラーの形状”を工夫しています。クルマを開発する際、ごく初期段階でドライバーの位置、ドライバーの目の位置を決めます。そこから全周に360度の放射状の同心円を描き、クルマのピラーと重なる部分の死角をチェックします。この死角を最も小さくするようなピラーの断面形状を考えるのです。写真A(最下部のコーナー左)はドライバーの視点から見たリヤクォーターピラーです。同じピラーでも視点を変えて見るとこれだけの太さがあることが分かります。(写真B:最下部のコーナー右)
もう一点垂直方向の視界に関して言えば、視界による安全性を考慮するとできるだけ窓の下端を下げて低い位置に設定したい。しかし、これもさまざまな要件がありますから際限なく下げるわけにはいきません。そこで工夫したのがリヤワイパー下の空間です。ご存知のようにSUBARU車はセダンも含めてほとんどのモデルにリヤワイパーが設定されていますが、悪天候時には良好な視界を確保するリヤワイパーも未使用時には直接視界を妨げる要因のひとつになります。そこでドライバーの視点から特定の角度で見下げた場所に何ミリ以上の隙間を確保するという要件を決めて、すべてのモデルにワイパー下にわずかですが隙間をつくっています。見下げ方向の角度があるため、ごくわずかな隙間でもそこにモノがあるか否かが判るのです。
こうした手法や考え方は目新しいものではありませんが、大切なのはそれをどこまでやるか、ということ。コンマ何ミリのレベルまでせめぎ合って徹底してつくり上げているのがSUBARUらしいところではないでしょうか。
今月の語った人
佐藤 健一
株式会社SUBARU
第一技術本部 車両研究実験第二部
1986年埼玉県日高市出身。学生時代には“学生フォーミュラ”のサークルに所属し、コクピットまわりを担当。この競技は加速、旋回、タイムアタック、設計、コスト等さまざまな側面から審査されるもので、世界から学生がエントリーして行なわれる。日本で4位、アメリカで9位という成績を残した。最近は2年前の引越しをきっかけにプランターを使った家庭菜園を始める。これまでトマト、ナス、ピーマン、バジルなどを収穫した。同じ時期に奥さんが飼い始めた牝猫のりんちゃんには、毎日噛まれているそう。
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